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神戸地方裁判所 昭和60年(ワ)950号 判決

原告

神戸市

右代表者市長

宮崎辰雄

右原告訴訟代理人弁護士

中嶋徹

被告

上田スミコ

右被告訴訟代理人弁護士

出口治男

主文

一  被告は原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、且つ昭和六〇年三月二一日から明渡済に至るまで一ケ月金二五五〇円の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は原告において金二〇〇万円の担保を供したときは仮に執行することができる。

事実

第一  原告は主文第一、第二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一  別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という)は原告が所有し、住宅地区改良法第一四条の施設として使用している仮設住宅である。

二  原告は本件建物を、昭和五二年九月二二日訴外亡上田義行(被告の夫。以下「義行」ともいう。)に「原告において必要があるときは使用許可を取り消すことがある」条件で使用許可した。

三  原告は昭和五五年一一月一日右訴外人に対し、神戸市中央区南本町通六丁目三番所在市営住宅一七号棟二〇三号室(改良住宅)への入居を許可すると共に、同棟一二一号室には改良本店舗として入居し、本件建物を明渡すよう交渉したが、同訴外人はこれに応じなかつた。

四  昭和五九年九月一四日右訴外人が死亡し、被告が同訴外人の地位を承継した。

五  本件建物は、軽量鉄骨造トタン葺二階建一棟三戸のうちの北端の一戸であるが、他の二戸は既に立ち退いているところ、原告は本件建物を含む右軽量鉄骨造トタン葺二階建の全てを早急に取り壊して、新生田川第二住宅改良事業を収束し、且つその跡地を新生田川左岸線整備事業に着手しなければならない状況にある。

六  そのため、原告は昭和六〇年二月二二日被告に到達の書面で右事業推進の必要上昭和六〇年三月二〇日迄に本件建物を明け渡すよう催告し、同日迄に明け渡さない時は使用許可を取り消す旨通知した。

七  しかるに、被告は原告が指定した右期限内に本件建物を明け渡さなかつたので、本件建物の使用許可は取り消された。

なお、右三項記載の市営住宅一七号棟一二一号室改良本店舗は、被告が本件建物を明け渡せば何時でも入居できる状態にしてある。

八  本件建物の使用料相当損害金は、一ケ月当たり金二五五〇円(神戸市公有財産規則第二八条に準拠した建物評価見込額の千分の五)である。

九  よつて原告は被告に対し、本件建物の明渡しと、使用許可取消通知の到達した翌日である昭和六〇年三月二一日から明渡済にいたるまで使用料相当損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ。

第二  被告は「(1)原告の請求を棄却する。(2)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の請求原因事実に対する認否及び主張として次のとおり述べた。

一  被告の認否

1  請求原因一項ないし四項は認める。

2  同五項のうち、本件建物が軽量鉄骨造トタン葺二階建一棟三戸のうちの北端の一戸であること、他の二戸は既に立ち退いていることは認めるが、その余は不知。

3  同六項は認める。

4  同七項のうち、被告が期限内に本件建物を明け渡さなかつたことは認めるが、その余は争う。

5  同八項は不知。

二  被告の主張

1  被告の夫である訴外亡上田義行は以前から被告ら家族とともに本件改良住宅(以下「改良住宅」という。)所在地に立てられていた旧住宅に居住していた。ところで、改良住宅には居住用部分と店舗部分とがあるが、旧住宅居住者が改良住宅への入居許可を得るのに際し、特に店舗部分入居につき、入居予定者の希望をつのることもなく居室決定の基準と手続の内容及び過程が一切明らかにされることなく、原告の全くの自由裁量のもとに入居の店舗が決定されたものである。そして、義行が入居を指示された市営住宅一七号棟一二一号室は同訴外人の営む商売(生ホルモン小売販売)にとり、向い側が同一業種を営む者(溝上)である等の事情からして不利なところであり、生計をたてるにつき不安のある場所であつた。

2  ところで、義行は、住宅地区改良法一八条一号イ本文に該当する者であるから、原告は同人を改良住宅に入居させるべき義務を負うが、改良住宅の入居に際しては、居室の条件に違いがあるため、施行者である原告は、多数の入居希望者を公平に扱い、かつ入居決定手続が公正に行われるように配慮すべき義務がある。しかるに、本件改良住宅入居手続において、施行者たる原告は、義行を含む多数の入居希望者を公平に扱わず、かつ入居決定手続を公正に行わなかつた。すなわち、もつとも公平な方法は居室をくじ、その他の抽選によつて決定する方法であると思われるが、原告はそのような方法をとらず、かつ、それ以外のいかなる方法で居室を決定したのかその基準と手続の一切を明らかにしないまま居室を決定している。このような原告の入居決定手続は前記義務に反して違法であり、訴外亡義行は右一七号棟一二一号室入居に応ずる必要はない。そうすると、原告は訴外亡義行に対し、未だに本件建物(住宅地区改良法一四条の一時収容施設)に代わる改良住宅を提供していないのと同視すべき状態にあるというべきである。そして、右の一時収容施設に入居している者は住宅困窮者であるから、同施設入居の許可を取り消すためには、施行者の必要性があることを要するのみならず、施設入居者に対し適切な改良住宅を提供する義務がある。しかるに、原告は適切な改良住宅を未だに提供していないというべきであるから、一時施設入居を取り消すことはできないといわねばならない。

なお、被告としては、その生計の必要上自己の営業する生ホルモン販売小売業が成り立つていくための適当な店舗を提供されれば、そこに入居するのにやぶさかではない。零細小売業者をいじめることのないように配慮願いたい。

3  被告の子供である訴外上田耕太郎、同押山裕子らが原告に対していい続けてきたのは、実は原告は右の義務に反し、そもそも入居資格のない者を入居させているのではないか、ということであつた。すなわち、原告は右の者らの入居資格の有無を判断するのにどのような資料にもとづいたのかを原告は明らかにすべきである。義行につき右一七号棟一二一号室を指定したというが、本来入居資格のない者を右一七号棟に多数入居させた結果義行について営業上右のような不利益をもたらす可能性の高いところを指定せざるをえなくなつたものであり、右のような指定が違法であることはいうまでもない。

4  なお、原告は要は自由競争の原理によるべきだといつて、被告と右溝上との競合関係にあることによる不安を簡単に切り捨てるが、これは被告や溝上の商売上の顧客が狭い限られた地域の者であることを故意に無視した不当な一般論である。顧客の立場に立つと、今までは被告と溝上の店は離れており、どの顧客がどちらの店で買つていたのかわからなかつたのに、もし、店舗が向い同士になればどちらの店へはいるかにつき互いの店から監視されるような格好になつていき辛くなり、結局は顧客が逃げてしまうという結果になる可能性が強い。このことは品質をよくしたり、値段を下げたり、という競争原理の導入でどうにでもなるものではない。狭い、互いに長い付き合いをしている地域の人間の、経済外的要素が問題なのである。

この点、原告は、店舗改装費用負担の根拠がないので義行らの申出を断つたと主張するが、店舗改装の費用負担については義行又はその代理人の右上田耕太郎と当時の原告担当者との間での約束ができたのを、同担当者が理由なく拒絶したため義行は入居できなかつたというのが実情である。

5  いずれにしろ、本件の改良本店舗入居決定手続は入居資格のない者を入居させている点において違法であり、従つて右一七号棟一二一号室への被告の入居指定は違法である。そうすると、被告に対してはいまだ改良住宅の提供がないというべく、従つて本件一時収容施設の使用取消は違法である。よつて原告の請求は失当である。

第三  被告の主張に対する原告の反論

一  まず、被告は「旧住宅居住者が改良住宅への入居許可を得るのに際し、特に店舗部分入居につき、入居予定者の希望をつのることもなく、居室決定の過程がいかなる基準と手続で行われたのか一切明らかにされることなく、入居店舗が決定されたものである。」と言う。

しかし、原告は昭和五二年九月二二日義行に本件建物の使用許可を与えた直後の頃から、同人が入居すべき改良住宅について話合いを続けてきた。同人自身は何十回も話合つたことを認めている。面積についても、同人が二四平方米を希望しているので同人の希望通り、市営住宅一七号棟一二一号室は二四平方米にしている。

また、原告は住宅地区改良事業の実施にあたつて、先ず従前店舗等の実態調査を行い、その結果に基づいて店舗認定を行つた後、従前店舗面積等を考慮して店舗建設をするのである。そして、従前店舗の規模及び業種等の諸条件を勘案して適正かつ合理的に入居決定を行つている。右一七号棟の店舗について言えば、最小面積一八平方米から最大面積六〇平方米まで、面積で八区分、店舗数で三〇店舗を建設する必要があつたのであるが、そのうち二四平方米の店舗は一七号棟の広場に面した箇所に三店舗建てた。被告の場合、店舗の規模が二四平方米であつたから右一七号棟の広場に面して配置された二四平方米の店舗三店舗のうちから被告との話合いを進めながら右一七号棟一二一号室と決定したのである。従つて、被告の前記主張は当を得ておらず、また被告の言う全くの自由裁量というのは当たらない。

さらに、被告は住宅地区改良法一七条一項、一八条の規定により、「原告は右の事業の施工に伴い「住宅」を失つたものを入居させるべき義務を負つていることはいうまでもない。右の点につき裁量は働かない」と主張する。

しかし右規定は一般的に事業施行者が守らなければならない公法上の義務であつて、原告は事業施行者として、同法第六条に定めた事業計画に基づいて事業を施行しており、被告の言う前記義務は、原告が入居者に対して個別的に負つているものでもない。このため、同法一八条の規定によつて、入居させるべき者が改良住宅に入居する権利を取得するわけでなく、改良住宅に入居できるのは、公法上の義務の反射的利益にすぎないのである。

二  次に、被告は「本来入居資格のない者を一七号棟に多数入居させた結果義行について営業上不利益をもたらす可能性の高いところを指定せざるをえなくなつたものであり、右のような指定が違法であることはいうまでもない」と主張する。

しかし、原告は住宅地区改良事業の実施にあたつて公平な行政執行を図るため居住或いは店舗の実態調査を行つたうえ、改良住宅或いは店舗入居資格者の有無について判断し店舗入居資格者に限つて店舗認定通知を行つているのである。そして、被告については昭和五三年九月一三日付け店舗認定通知を行つた。このように、右認定通知を基にして入居割当を行つたものであり、被告の主張は独断による事実誤認としか言いようがない。従来からの被告の右主張は、被告の店舗改装費用を原告から出捐させる不当な要求を通すための言いがかりとしか受取れない。現に、右一七号棟の店舗は三〇軒であつて被告の主張のように入居資格のない者を入れて店舗数が増加しているという事実はない。

次に、右一七号棟三〇店舗のうち食料品・飲食店舗は顧客の集まりという観点から右一七号棟の広場に面するところに配したのであつて、右一七号棟の商店街で同一二一号室は、食料品・飲食店としての立地条件は非常に良い所と言えるのである。被告は一旦右一二一号室へ入居する事について承諾したが、店舗改装費用のことで態度を豹変したものである。

三  次に、被告は「義行が入居を指示された一七号棟一二一号室は同人の営む商売(生ホルモン小売販売)にとり、向い側が同一業種を営む者である等の事情からして不利なところであり、生計をたてるにつき不安のある場所であつた。」と言う。

しかし、被告方は「ホルモンのはかり売り」と「ホルモン串焼」を業としているのに対し、他の業主は「ホルモン肉」販売業(溝上商店)と「焼肉、酒類」販売業(佐々木浄子)であつて、全く同一の業種ではない。それに従前の住居(旧住居は共同住宅であつた)当時の、被告方と他の二店との距離は被告方←溝上商店約八九米、被告方←佐々木浄子方約五五米、溝上商店←佐々木浄子方約五七米であるのに対し、一七号棟では被告方←溝上商店約二〇米、被告方←佐々木浄子方が約六〇米、溝上商店←佐々木浄子方約六〇米であつて、距離は若干縮まるものの旧住居当時と比べて特段に変化があるわけではない。

この点、被告は、被告や溝上商店の顧客が狭い限られた地域の者であることを理由に、業種競合による不利益を主張するが、右地域での競争原理に基づいて多数の同業者が併存して、それぞれ何ら支障なく営業していることは、多数の事例により明らかである。

なお、原告が被告に認定した面積は二四平方米であるところ、右一七号棟には店舗面積が二四平方米の店舗は八戸あるが、このうち食料品店又は飲食店として認定した三戸はいずれも広場に面した店舗を割り当てることにしたのである。これは顧客の集まりと言う点からみれば、店の経営者にも買物客にもよいとの配慮によるものである。広場に面していない東側の四戸の店舗は何れも店舗認定時には事務所等の非食料品(飲食)店である。

四  さらに、被告は「改良住宅の入居に際しては、居室の条件に違いがあるため、施行者は、多数の入居希望者を公平に扱い、かつ入居決定手続が公平に行われるように配慮すべき義務がある。しかるに本件改良住宅入居手続において施行者たる原告は、義行を含む多数の入居希望者を公平に扱わず、かつ入居決定手続を公正に行わなかつた。」とも言う。しかし、原告は改良住宅の部屋割りについては、抽選会を開いて公平に割当てをしているし、店舗については抽選になじまず、被告の非難は当たらない。店舗につき話合いを続けてきたことは、被告自身が最も知悉している筈である。

五  また、被告は、「未だに本件建物(住宅地区改良法一四条の一時収容施設)に代わる改良住宅を提供していないのと同視すべき状態にあるというべきである。」と言うが、原告は昭和五三年九月一三日右一七号棟一二一号室店舗認定通知をしている。

六  最後に、被告は「右の一時収容施設に入居している者は住宅困窮者であるから同施設入居の許可を取り消すためには、施行者の必要性があることを要するのみならず、施設入居者に対して適切な改良住宅を提供しなければならない。」と言う。

しかし、被告は既に住居については改良住宅へ入居しており、また、店舗についても、原告は右に述べたように右一七号棟一二一号室を提供したことによつて、被告の主張が失当であることは明らかである。

なお、被告は右一七号棟一二一号室は向い側が同一業種を営む者である等の事情からして不利なところであり、生計をたてるにつき不安のある場所であつたと言うが、前述のとおり、右一七号棟一二一号室付近には多くの商店が集まつている言わば立地条件の良好な商店街であり、そこには別紙に同一業種は同じ色分けして示したように、多くの同業者が併存してそれぞれ何らの支障なく営業している。要は競争原理によつて、客のニーズに応じた商売をすれば十分営業は成り立つ筈でありそれが出来なければ何処で商売をしても同じであり、向い側が同一業種を営む者であるとの理由で右一七号棟一二一号室への入居を拒むのは不当と言うべきである。

七  他方、原告は早急に新生田川左岸線整備事業を行わなければならないのであるが、その予定地に本件建物が立ちはだかつている(本件建物の三戸のうち被告を除く他の二戸は既に立ち退きずみである)わけであり、これが右整備事業進捗にも大きな支障を来たしている。

本件建物の用途は、「改良住宅入居までの仮住居用及び仮店舗用」として使用許可したものであるところ、被告は既に原告提供の改良住宅には入居し、また原告は被告に対し割当本店舗をも提供したうえ、前述のとおり、使用期限を指定して使用許可の取消しをしたのであるから、被告は本件建物の使用を続ける権限は何もない。

第四  証拠関係〈省略〉

理由

一、請求の原因一ないし四及び六項記載の事実、同五項のうち、本件建物が軽量鉄骨造トタン葺二階建一棟三戸のうち北端の一戸であること、他の二戸は既に立ち退いていること、同七項のうち被告は原告主張の期限内に本件建物を明け渡さなかつたことについては当事者間において争いがない。

二、次に、訴外亡上田義行は原告主張の改良事業につき住宅地区改良法一八条一号イ本文の該当者である(原告もこの点は争つていない)が、原告は右義行に対し「原告においても必要があるときは使用許可を取り消すことができる」との条件を付して同法一四条所定の施設としての本件建物(住居及び店舗用に)の使用を許可したものであるから、改良事業施行者である原告がその主張の事業施行の必要上本件建物の使用許可を取り消すためには、同法一八条により右義行、従つてその相続人である被告に対し、他に適切な改良住宅及び改良本店舗に入居させなければならず、その際、右事業施行のために中立公平な行政の執行に当るべき原告としては、改良住宅及び改良店舗の認定においては多数の入居希望者間において公平に、かつ個々の認定においても適正・合理的に行うべきことは多言を要しないところである。

ところで、原告は被告に対し改良住宅用に市営住宅一七号棟二〇三号室を、改良本店舗用に同一七号棟一二一号室をそれぞれ認定したことについては当事者間に争いがない。

ところが、被告は右一七号棟二〇三号室の割当てについては抽選によるもので異議なく承諾して入居したが、改良本店舗用の右一七号棟一二一号室の割当てについては原告がその認定手続と基準を明示せずに全く恣意的に行つており、とりわけ入居無資格者を多数入居させたために被告には営業上不利益の大きい右一七号棟一二一号室を割当てざるをえなくなつたのであつて、右改良本店舗認定手続自体が適法に行われたものとはいえず、かつ、右一七号棟一二一号室の認定自体も向側及び付近店舗には同業者が営業しているので被告の営業と競合するために被告の営業権が侵害されることを看過した割当て認定であり、いずれの点からみても右本店舗認定は被告主張の前記義務に違反した違法なものであるから、原告の被告に対する右一七号棟一二一号室の認定は被告に適切な改良本店舗を提供したものとはいえず、従つて、適切な改良本店舗の提供を前提とした本件建物の使用許可取消は違法である旨主張する。

そこで検討するに、前記当事者間に争いのない事実に加えて、〈証拠〉を総合すると次の事実が認定でき、同認定に反する〈証拠〉は前記各証拠と対比検討するとにわかに措信することができず、他に同認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  原告は仮設住宅入居者に対し改良住宅の部屋割当てを行うに際して、入居希望者の資格について実態調査を行い、入居有資格者については公開の抽選会を開いて改良住宅の部屋割当てを行つたもので、その結果被告は市営住宅一七号棟二〇三号室の割当てとその使用が許可され、被告もこれを承諾して入居した。

(2)  改良本店舗の部屋割当てについては、右のような公開の抽選により改良本店舗の部屋割りを行うことは必ずしも合理的な方法とはいえないとして、原告は予め改良本店舗の建設に当つて入居希望者の従前店舗の実態調査を行い、その結果に基づいて入居資格者とその店舗認定を行い、従前店舗の面積・業種及び入居者の意向等を考慮して改良本店舗を作つた。

そして、市営住宅一七号棟の改良本店舗について言えば、最小面積一八平方米から最大面積六〇平方米まで、面積で九区分、店舗数で三〇店舗を作つた。

(3)  市営住宅一七号棟の三〇店舗の割当てについては、店舗の規模、業種、その効率的利用及び入居者の意向等を考慮し、かつ店舗の立地条件、とりわけ食料品・飲食店舗は顧客の集まりと利用の便利さという観点から主として右一七号棟一階の広場に面したところに集中させて割当て、同所を右一七号棟の中心として多くの商店が集まるように配慮した。

(4)  そして、右三〇店舗のうち、義行、従つてその相続人の被告が希望した二四平方米の店舗は市営住宅一七号棟の広場に面した個所に三店舗、その広場に面しない東側には四店舗、広場に面しない東南側に一店舗の合計八店舗が作られた。被告の場合、店舗の規模が二四平方米で、しかも改良本店舗で食料品販売、すなわち「ホルモンのはかり売り」と「ホルモンの串焼売り」を営業とすることから、原告は右一七号棟の広場に面して商店の集つた所に位置する二四平方米の三店舗のうちから被告の意向をも勘案したうえ右一七号棟一二一号室を割当てることとした。

(5)  被告は一度は原告の割当てた改良本店舗(右一七号棟一二一号室)に入居することを承諾し、原告に対し店舗設計図までも提出した。しかし、その際被告は、店舗改良費用を原告側で負担してほしい旨申し出たが原告がこれを拒んだので、原告の割当てた右本店舗(右一七号棟一二一号室)への入居を断るに至つた。

(6)  なお、改良本店舗に入居資格のない者を多数入居させたために被告には営業上不利益の大きい右一七号棟一二一号室を割当てざるをえなかつた旨の被告の主張については、同主張に添う証人上田信治、同押山裕子及び同上田耕太郎の各証言もみられるが、同証言はにわかに措信することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(7)  ところで、被告は市営住宅一七号棟一二一号室に入居して「生ホルモンのはかり売り」と「ホルモンの串焼販売」を営業することとなると、その向側の溝上商店では「ホルモン肉」の販売をしており、また近くの佐々木浄子店舗では「焼肉・酒類」の販売をしているので、被告が主張し危惧するように同業者間の競業は避けられないかも知れない。

(8)  しかし、右一七号棟一二一号室店舗と右同業者の店舗との位置・距離関係は、被告らの従前の住宅当時のそれに比較して原告主張のように多少短縮されたところがあるとしても、被告の営業に支障を来たす程の特段の差異はみられない(右一七号棟内で被告の改良本店舗の部屋を他の部屋に割り換えたとしても、被告主張の不安と不利益が直ちに解消されるとは思えない)し、むしろ、右一七号棟一二一号室付近は原告主張のように多くの店舗が集まつた場所で顧客の集りと利用の便利さの点では食品店として立地条件の良い場所であり、しかも、同業者が原告主張のように併存しながらも自由競争の原理の下に何らの支障もなく営業を行つており、また同業者の競業により顧客の増加と共栄をはかつている事例も巷間では多く見られるところであり、さらに被告に対する右一七号棟一二一号室店舗の割当てについては他の同業者からは何らかの異議(被告に対する改良本店舗の割当てのみならず自己の改良本店舗の割当てをも含めて)が述べられたこともなかつたのであるから、原告が被告に右一七号棟一二一号室の改良本店舗を割当てるに際し、被告主張のような同業者間の競業が避けられないとしても、被告のみを特に不公平かつ不利益に扱つたものともいえない(なお、被告主張の経済外的要素により被告に営業上の不利益が生ずることも否定できないとしても、競争原理により合理的に改善是正することも可能であるから、被告の右主張を正当化するものとはいえない)。

そして右事実によると、原告のした市営住宅一七号棟二〇三号室については被告においても抽選による公平な割当てとして異議なく承諾しており、また改良本店舗用の同一七号棟一二一号室については、前記のとおり、その認定手続過程及び認定結果において被告主張のような違法があるとはいえない(むしろ、原告の合理的な裁量の範囲内の認定)ので、原告が被告に対して行つた右一七号棟一二一号室の改良本店舗認定は適法であり、これにより原告は被告に対し改良本店舗を提供した(現在も提供を行つている)ものといわざるをえない。

してみると、原告が昭和六〇年三月二〇日に被告に対し行つた本件建物の使用許可取消し(請求の原因六項記載の方法により)は有効と解される。

三、成立について争いのない甲第七号証(神戸市公有財産規則第二八条参照)及び弁論の全趣旨(本件記録添付の神戸市中央区長作成の「公有財産の評価について」と題する書面)によると、本件建物の賃料相当損害金は一か月当り金二二五〇円であることが認められる。

四、以上の次第で、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官小林一好)

別紙物件目録

神戸市中央区南本町通六丁目一四番一先公衆用道路地上

軽量鉄骨造トタン葺二階建

仮設共同住宅一棟一一六・六四平方米(仮設住宅川沿第一号)のうち、北端の一戸三八・八八平方米。

図面①、②〈省略〉

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